依頼者Aさんは、令和3年6月に父が亡くなり父の遺した不動産の全部を相続により取得したところ、その中に自宅敷地を含めた3筆の土地(以下「本件土地」といいます)が、大正12年にAさんの父からみて祖父Bが死亡したことにより、その祖父の兄弟姉妹が遺産相続を原因として相続登記がなされ9名の共有登記がなされていました。
Bはもともと前戸主Cの長男として生まれましたが、分家してCの戸籍から離れました。この離れている間にBは本件土地を購入していました。その後、BはCの戸籍に再入籍してBの家督を相続する地位に復帰しましたが、Cの家督を相続する前に死亡したため、本件土地が遺産相続の対象となってしまったのです。
その後、Cの隠居により9名の共有者の一人であるAさんの祖父Dが家督相続し、以後Dが占有管理し、Dが昭和52年に死亡してAさんの父が相続して、前記のとおりAさんが引き継いだということになります。しかし、長年にわたって本件土地は名義変更されることなく、大正12年に共有登記がなされたまま現在に至りました。
Aさんの父は令和3年6月に亡くなるまで、9名の共有関係にある本件土地の名義変更を願っていましたが、それを果たせないで悩んでいた姿を見ていたAさんは何とか父の所有名義にできないか、ひいてはAさんの所有にできないかと悩んで当事務所に相談されました。
この相談を受けて、Aさんの祖父であるDが家督相続したことによりDが本件土地を所有の意思をもって占有し始めたと考えられないか検討しましたが、前記のとおりDは本件土地の9名の共有者の一人であるため共有の意思で占有していることは認められても単独所有の意思で占有を始めたと言えるか大変難しい問題を抱えていました。
そこで、Dが昭和52年に死亡したことによりAさんの父が新に本件土地をDから相続したと考え、本件土地の公租公課も父が負担しながら単独で占有してきており、他の共有者ないしはその相続人は何らの異議を述べてこなかった等と主張してAさんの父による時効取得を理由に共有者の相続人らを相手にAさんの父に対する共有持分の移転登記を求める訴訟を提起しました。その結果、裁判所はAさんの父に共有持分の移転登記手続をすることを認める判決を出してくれました。
複雑な案件でしたが、何とかAさんの要望にも応えることができました。