事案の内容
Aさん(男性)は、70歳を過ぎて今後のことを考えるなかで、同世代のBさん(女性)と知り合い、残りの人生をともに過ごそうと考え、結婚することにしました。ところが、数年後Bさんの認知症が進行し、要介護認定を受けて入院の話もでるようになりました。BさんはAさんがいなくなると不安になり騒いだり、追いかけてきたりするので、Aさんは休まるときがありません。今後Bさんがさらに認知症が進行し、介護に費用がかかることが心配で、AさんはBさんの子どもたちに援助を頼みました。しかし、Bさんの子どもたちは「援助はできない。もともと高齢で結婚したのだから、このようなことになることは覚悟していたはずだ。夫なのだから、自分で何とかしてほしい」と援助を断ってきました。困ったAさんは、夫であることが問題だと考え、Bさんと離婚すべく法律事務所を訪れました。
事案の解決
今回のご相談は離婚ということですので、まずは当事者同士で合意ができるかが問題となります。ただし、Aさんの話からすると、Bさんが離婚に応じるとは思えません。そのような場合に離婚を進めようとするのであれば、裁判所を通じて調停・裁判を行わなければなりません。調停は裁判所で行う話し合いですので、Bさんの状況からすると裁判しか手段はないと考えられます。妻が拒否しているにもかかわらず、裁判所が離婚を認めることができる類型については、民法770条1項に記載されています。
Bさんについて該当する可能性があるとすれば、4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかという点です(以前は精神病で回復の見込みがないことも掲載されていたのですが、法改正で削除されています)。単に認知症であるというだけでは足りず、そのような病気もあいまって、もはや夫婦として生活している実態もなく、今後生活していくことも困難であるとみられる事情がなければなりません。ただし、Bさんが認知症となったのは数年前であり、AさんがBさんと一緒に生活をしている状況からすると、現時点でこの4号に該当すると判断することは困難と思われました。
また、Bさんの認知症の程度によっては、裁判を受ける能力がないとされる場合もあります。その場合には、Bさんの成年後見人を選任し、その成年後見人に対して裁判を起こさなければなりません。これらの事情から、Bさんと離婚するということは困難であると思われました。
そもそも、Aさんが離婚を考えたのは、Bさんへの愛情がなくなったからではなく、夫という立場にあることで自分の生活も成り立たなくなってしまうのではないかという不安からでした。そのような不安を解消する方法としては、Bさんの財産を適切に管理してくれる成年後見人を選任することが考えられます。Bさんが認知症の進行により自らの財産を管理できる状況ではないとして成年後見人が選任されれば、Bさんの財産管理は成年後見人が行ってくれます。Bさんの介護にかかる費用などについても、その成年後見人と相談することができます。Aさんは成年後見人の費用について心配されていましたが、Bさんに成年後見人に支払うお金がない場合には、成年後見制度利用支援事業を使うことで、自治体から援助を受けられることもあります。
このような説明を受け、Aさんは、一度ヘルパーや市役所に相談してみることになり、離婚の問題は保留となりました。高齢化社会がすすむなかで、今後もAさんのような境遇の方が出てくることも考えられます。今回の事案紹介が参考になれば幸いです。

