福島県須賀川市に居住する甲さんは、令和4年に福島県郡山市に所在する宅地と畑を1筆ずつ相続で取得して自分名義に所有権移転の登記手続をしました。ところが、その土地に大正5年3月に設定登記された抵当権がついていました。抵当権の内容は、登記原因が大正4年11月●日設定、債権額が10円、利息が年2割、抵当権者が福島県田村郡に住所を有していた乙さんという方でした。
甲さんは、乙さんとは面識がなく、また、乙さんはすでに死亡していることが推測されました。この段階で、甲さんは当事務所にこの抵当権の抹消ができないか相談にお見えになりました。
そこで、当事務所では、当該土地の閉鎖登記簿謄本を取ることから始めました。その結果、上記の抵当権の被担保債権の弁済期は大正5年12月●日になっていることが判明しました。
ただ、この被担保債権が弁済期までに利息を添えて完済されているかどうかは甲さんもわからず、なぜこのような抵当権が設定されたかも分かりませんでした。つまり、この被担保債権が弁済により完済しているかどうか甲さんは立証する手段を持っていませんでした。
しかし、一般的に、当時の法律によれば、債権は弁済期から10年が経過すれば時効により消滅することになっていました。そうすると、この被担保債権は、弁済期の大正5年12月●日から10年経過していますので、現在では被担保債権は仮に存在するとしても時効で消滅していることになります。したがって、存在していない被担保債権の抵当権も抹消することが可能となります。
よって、乙さんが健在であれば乙さんに対して抵当権設定登記の抹消登記手続を求めることができますが、乙さんが亡くなっているとすればその相続人に対して抹消登記を求めることになります。
このため、当事務所では乙さんの相続関係を調査することになりました。その結果、乙さんの相続人は現在では33名の方々に相続分に応じて相続されていることが分かりました。この33名の方々は県内の方もおられれば県外の方もおられ、甲さんにとっては全く面識のない方々でした。この方々全員から抵当権の抹消のための同意を取り付けるためには、多大な時間と労力が必要となることが予想されました。
このため、甲さんはこれらの相続人の方々33人を被告として前記の抵当権の被担保債権が時効消滅していることを理由に抵当権設定登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起することになりました。
訴訟提起をするにあたって、被告となる33名の方々には、予めお手紙を差し上げて、これまでの調査の経緯や訴訟による解決を選択した理由などを丁寧に説明させていただきました。やはり、突然裁判所から訴状や口頭弁論期日の呼出状などが届くと、不安になる方や立腹される方もいらっしゃらないとも限りませんのでそうさせていただきました。その結果かどうかは分かりませんが、無事に抵当権の抹消を認める判決が出されて大正時代の古い抵当権は抹消することができました。

