令和8年7月17日、国旗の損壊等の処罰に関する法律が成立し、同年8月13日に施行されました。この法律は、自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党の賛成で成立したものですが、成立前は同法の成立に反対する世論や動きもあり、日本弁護士連合会や全国の多数の弁護士会でも反対の意思表示をしていました。また、成立後の同法の廃止を求める動きもあります。
同法が定める国旗損壊罪とは「人に著しく不快または嫌悪の感情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、または汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金の処する」というものです。
この国旗損壊罪を設けた立法趣旨については、国旗を大切に思う国民感情を保護するものであると説明されていますが、国会審議の中では愛国心を醸成するという発言をした日本維新の会の議員も存在し、時と場合によっては国民に対して国旗を尊重するよう強制する契機となりかねない危惧を抱かせています。
先のサッカーのワールドカップでは日本のサポーターが国旗を振って日本チームを応援する姿が度々テレビなどで映し出されており、国旗自体は国民の広くに定着していることが見て取れますが、他方で国旗に対してマイナスの感情や批判的感情を有する人がいることも事実です。
しかし、そもそも、国旗に対してどのような感情を持つかは国民一人一人の内心の自由に属することであり、これを刑罰を持って国旗を尊重するよう強制することは国民の思想信条の自由を侵害することになり、国民の政治的な活動を萎縮させることにつながりかねません。アメリカでも自国の国旗を侮辱したりする表現行為を禁止、処罰することに関して連邦最高裁が違憲判決を出しています。
国旗を大切に思う感情や大切に思う気持ちはそれ自体尊重すべきだと思いますが、これを法律で強制するような社会が生まれてくることは民主主義の危機を感じます。国旗損壊罪の運用がどのようになっていくのか注視していかなければなりません。
また、国旗損壊罪が成立する要件(構成要件)も大変問題があります。本来、ある行為を犯罪と認めて処罰の対象にするためには、その犯罪の内容が明確に定められていなければなりません。これを罪刑法定主義と言います。
国民にとって、何が処罰されて何が処罰されないかを明確に定めておかないと、国家権力が恣意的に刑罰権を乱用することにもなりかねず国民の人権が侵害されることに通じます。
国旗損壊罪に規定する「人に著しく不快または嫌悪の感情」という構成要件は、感情そのものが人によってそれぞれ感じ方が異なるもので、このような内心の感情を犯罪成立のための構成要件に加えることは罪刑法定主義の観点からすると大いに問題であると考えざるを得ません。
このようなことからか、警察庁も警視庁や各道府県警本部長宛に、法の適用にあたって組織的かつ緻密な擬律判断の徹底を行うとともに検察当局とも緊密に連携するよう通達を出しており、具体的な適用場面においてはかなり難しいことが想定されているようです。
したがって、国旗損壊罪は成立したばかりですが、扱い方が極めて難しいこと、国民の内心の自由や表現活動に対する脅威となりかねないものですから、廃止を含めて検討すべきではないかと思います。

